こんにちは、山口県宇部市の歯科・矯正歯科アールクリニックの歯科医師・院長の折田です。今日は、床矯正装置と非抜歯について語らせていただきます。
よく「床(しょう)矯正という装置をつけてあごを拡げれば、歯を抜かなくても矯正治療ができる」など、安易にいわれることがあります。床矯正装置とは、主に歯列を横に拡げる目的で使われます。
成長期のお子さんの場合、上あごは床矯正装置をつけることで歯列はある程度拡げることはできますが、あごそのものは拡がりません。上の歯列を拡げるには、「急速拡大装置」という固定式の装置を用いる必要があります。
また、下あごは骨の構造的に拡大できません。つまり、下あごを拡げようとしてもあご自体は拡がらず、単に下の歯列を扇のように傾斜させてしまうことになるのです。成長が止まった成人の患者さんはもちろん、上あごも拡がりません。
それが現実であるにも関わらず、「床矯正装置による非抜歯矯正治療」を掲げるのは問題があるといえそうです。床矯正装置そのものに問題があるのではなく、なんでもかんでも床矯正装置で治るということに違和感を覚えるのが正直なところです。
床矯正は無理に拡大することで、歯根が歯槽骨からはみ出してしまったり、噛み合わせが不安定になったりすることがあります。とくに乳歯と永久歯が混在する混合歯列期は、あごの成長を見ながら歯を動かすことが求められます。これには高度な臨床的判断が必要とされます。
日本における一般的な歯科治療では、できるだけ歯を残すのが良い治療の条件とされているため、矯正治療でも歯を抜かないことが良い治療だと考えがちですが、じつはそうではなく、長期的安定の観点から見て、永久歯の抜歯が必要な症例はじつのところたくさんあります。あごが細くなっている現代の日本人は、とくにその傾向が強いといえます。例えるなら、8人掛けのベンチに10人座ろうとすると、一人ひとりが窮屈で不安定な座り方になるように、あごのスペースに安定した形で歯を収めるためには、抜歯が必要となる場合もあるということです。つまり、必要な抜歯を行うことで、残った歯を長持ちする状態に保つことが「歯をできるだけ残す」ことにつながるわけです。